<日本初演>(「みんなのためのノンパラメトリック回帰」第3版下巻510ページより引用)
「Smoothing methods in statistics (Springer Series in Statistics)Springer-Verlag Company.(Jeffrey S. Simonoff (1996))」を日本語に訳して「平滑化とノンパラメトリック回帰への招待. 農林統計協会.竹澤・大森 訳 (1999)」を製作する作業は、日本語で書かれたノンパラメトリック回帰の入門書がこれまでになかったことから、その緒となるに相応しい本を生み出すことを目的として始まった。その過程では、農林統計協会の方々と大森氏に多大な御迷惑をおかけしたことをここであらためてお詫びしたい。
しかし、その作業は予想外の困難が立て続けに襲ってくるような種類のものであったことも事実である。そうした作業を何とか続けることができたのは、多くの方々からの激励と御協力があったことに加えて、インターネットで公開されていた1つの演奏にふとしたきっかけで出会ったことによる。それは、時津英裕氏(ヴァイオリン)と金洪才指揮 九州交響楽団の演奏による、コルンゴルト作曲 ヴァイオリン協奏曲(1989年(日本初演))であった(現在のURLは、http://korngold.jp/)。何気なくクリックしたことで流れ出てきた演奏に心を奪われたのである。パソコンに標準で装備されたスピーカーは複雑な音色と表情を伝えるには充分ではなかったけれども、輝かしい情熱と込み上げる叙情が鮮烈な印象をもたらした。それは、超絶的な技巧と磨き抜かれた音楽性の表出であると同時に、この曲への深い共感の吐露でもあり日本初演への熱意でもあるのだろう。その力強い情感と意気に促され、ノンパラメトリック回帰の入門書の「日本初演」への覇気が漲ってきた。
その後、コルンゴルト作曲 ヴァイオリン協奏曲に対する評価は大きく向上し、日本でもヴァイオリン協奏曲の標準的なレパートリーの1つになったようである。日本初演における目覚ましい成果がなければこうした展開はあり得なかったのだろう。インターネットを始めとする通信手段の発達とそれによる書籍やコンパクトディスクの個人輸入やダウンロード販売によって日本初演の意義は薄れているという見方もあり得る。しかし、選別されたものが輸入されて国内の需要に適合した形で消費され確立するという我が国古来の文化受容形態においては、日本初演が実現したものとそうでないものとの間には社会的存在価値において大きな隔たりがある。日本市場の動向を考慮に入れたり個性を反映させたり洗練の度を増したりの工夫が加えられた場合はその意義は更に高まる。日本初演は、表現領域の拡大を目指す試行や斬新さへの探求に止まるものではない。1つの価値観の毅然たる提示であり、文化への意志の表明である。
© Kunio Takezawa