真空管の選び方に秘訣なんて無い。6SN7では各国の球を集め尽くしたが、プリアンプに使う12AX7には泣かされた。
まず、基本的事実を。現在世界で真空管工場が有るのは中国と東欧諸国だけであり、西側諸国や日本はとっくの昔に製造を止めている。現在完成品として発売されている真空管アンプの99%(ほぼ100%)は、中国製や東欧諸国製の球のセレクト品が使われており、それなりの音は出る。コンスタントに商品を供給するには、これらの球を使わざるを得ないからである。
また、ギターアンプの世界では、今でも真空管の熱狂的ファンが多い。ここでは真空管の歪み特性を好む人が多く、故意に飽和させてプレートを赤熱させて使い、コンサート毎に球を替えるなど過激な使い方をする人もおり、実際、需要に応じて中国東欧球の品質も向上している。ギターアンプでは、パワー球は消耗品とされている。高価なブランド球を使うなど、もっての外である。
それでも真空管にこだわりたい人のために、この文章を書いた。やけどしたければ、これから先は、読む必要は無い。
今ではCDが中心になり、LPレコードを聴く人も減ったので、以前ほどシビアではなくなったものの、今でもLPレコードを聴く人は、イコライザの真空管選びで苦労するに違いない。
何が問題になるか。ガサガサブツブツノイズが出る球(意外に多い)は論外としても、ホワイトノイズとマイクロフォニックノイズは曲者である。マイクロフォニックノイズとは、真空管がマイクロフォンのように振動し、スピーカーから音が出る事である。振動に対する強度の問題である。この他にも、カラカラノイズや電極の異常振動など、使い物にならないノイズ発生球が国産、輸入を問わず多数存在し、堂々と売られているのである。
全般的な傾向として、プレートが大きい球は音が良い代わりに振動に弱い。プレートが小さな球は、音はイマイチだが振動には強い。真空管というのは、真空なガラスの中に建てられた鉄板建築である。建てつけの良し悪しは目視である程度判断できる。建てつけの悪い球は絶対に買ってはならない。最近の中国東欧球では、振動対策を重視し、プレートが小さいものが多い。
名にしおうテレフンケンダイヤマークやムラード英国製の球を試したこともあるが、これでも必要数の倍は買わないと、良い球は揃わない。全般的に海外球はリスクが多い。12AX7に関する限り、RCAやGE等のアメリカ球で良いものに出会った事が無い。以前6SN7で、ペアで7200円も出して買ったタングソル茶ベース米国製は、中国球にも及ばない音で、早々に手放した。反面、東欧諸国球でも、旧ソ連だが、MELZ1578(6SN7相当)のような思いがけない掘り出し物も有るので、一概に東欧球が悪いとは言い切れない。
とにかくイコライザ・アンプではノイズが重要で、ノイズと音が両立した球は、現在中国や東欧で作られている球では滅多に満足のいく球には巡り会えない。フラットアンプやパワーアンプでは、ノイズが問題になる事は少ないので、これらの球でも不満が出ることは少ないと思われるのだが...
比較的確実な球を望むのなら、日本製の球を選ぶことである。真空管全盛期に作られた球の音が良いのは言うまでもない。例えば表記が「真空管」ではなく「眞空管」になっているものは、古いわけで、音が良い球に巡り会える確率が増える。しかし、未開封新品ならともかく、元箱入りでも中身だけ変えた中古もあるので注意が必要である。中古かどうかはガラスの曇りやゲッターの減り具合で判断できる。
ましてや、得体の知れない白箱(軍箱と間違えない事)入りのものは、細心の注意が必要である。白箱入りで緑表示の軍用球が多数出回っているが、これらは、中古やセレクトで外れた品が多く、ろくな球に出会った事が無い。中にはガラスにヒビが入っている球もあった。白箱の球は、まれに掘り出し物も無いではないが、最もリスクの多い球選びであろう。
根気よく探せば、大きなプレートで振動にも強い最強の球に巡り合えることもあるが、業者もしたたかで、このような良い球は逃さず高値を付けていることが多い。リスク承知なら、ネットオークションという手もあるが、初心者にはおすすめできない。
テレフンケンダイヤマークなどの名品をふんだんに買える予算がある人を除き、イコライザ、フラットアンプ、パワーアンプ共に、現在作られている中国東欧球のセレクト品を買うのが最も無難である。少なくとも半導体アンプの金属的な音よりはマシな音がすると思うが、これでは面白みがない。これにこだわり出すと、真空管のドツボにはまる事になる。
国産球でもメーカーにより、また電極の構造により、音が異なる。大雑把にメーカーに順位を付ければ、一位東芝(マツダ)、二位は日立と松下、三位はNECとテン、といったところか。東芝は、半導体時代になっても最後まで真空管にこだわったメーカーだけの事はある。流通量も比較的多く、国際的にも評価が高い。
国産球にはメーカーが独自にセレクトした通測用、通信用、Hi-Fiなどの表記が付いた球もあるが、あまりあてにはならない。肝要なのは、作りの良さと、年代である。
他にも、国産球には、メーカーが特別な御用達用に独自にセレクトした選別品が有り、有名なところではNHK、電波研究所、ヤマハ、LUXなどが知られるが、最近は買い尽くされて見かけなくなった。有っても高値が付いている事が多い。
僕は、12AX7に関する限り、リスクの多い海外製は敬遠し、国産球ばかり30本くらい持っているが、現在プリアンプに差している球はすべて東芝で、イコライザは中くらいのプレートサイズ、フラットアンプは初期のロングプレートで、音にも満足している。
他にも、黒いプレートは音が良いとか、色々な俗説があるが、中国東欧製のセレクト品を除き、下手に欲を出すと、使い物にならない球をつかまされるのが落ちである。 真空管業者は、真空管試験機で合格した球だけを並べていると胸を張るのだが、これがいい加減で、ヒーターが切れておらず、プレート電圧をかけて電流が流れるかどうかをテストしただけである。使い物にならないとクレームをつけても水掛け論になり、結局泣き寝入りという事になる。
一般に流通している球は、使い物にならない球が大半な事を思うと、安易に真空管に手を出すものではないという、何とも消極的な結論になってしまう。
健康に生きているうちに、最高の音に浸りたい。刹那主義的な僕は、手持ちの最高の球で現在ステレオを聴いている。プリアンプ(12AX7)のイコライザは東芝の通測用振動強化タイプ、フラットアンプは昔の東芝のロングプレート、いずれも必要数6本の5倍の約30本から選別したもの。パワーアンプのドライバー(6SN7)は旧ソ連製MELZ1578、終段(300B)は妥協して中国製と思われるトライオード製。あとは、お金を貯めてWE300Bを買うのみである。
この文章は、伊達に公開しているものではない。数多くの失敗、無駄遣いなどの経験で得られた、読んでいると涙が出るようなノウハウ集である。謹んで読んで欲しいものである。
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